ミュージシャン・坂本美雨 × サバ美 — 野良として出会った運命の猫

Jan 16, 2011 / Interviews

Photo: Shin Suzuki / Edit&Text: Madoka Hattori

日本とNYを行き来しながら音楽活動をしているミュージシャンの坂本美雨さんと、ブログやTwitterで人気の愛猫サバ美さん。幼い頃から猫がいる暮らしが普通だったという坂本さんは約一年前、ソウルメイトとも呼ぶべきサバ美さんと運命の出会いをします。初公開となる自宅に潜入し、人見知りをしない自然なサバ美さんの姿を写真家・鈴木心が捉えました。

4匹の猫と暮らしたNYでの生活

ー以前から猫を飼っていたのですか?

「物心ついた時からずっと猫がいたんです。7歳の時に拾った猫をNYに連れて行って、亡くなるまで20年一緒に暮らしていました。名前は『タビ』といって、雑種でしたが白くてとてもきれいな猫でした。NYで暮らし始めてしばらくすると、日本に帰国する人から“猫を連れて帰れないので預かって欲しい”と言われ、結局4匹まで増えてしまい、しばらく大所帯で暮らしていました。おととしまでの3年間で立て続けに3匹が亡くなり、今は『ちーず』という名の1匹だけが残っています。ずっとその子たちと暮らしてきたので、日本に部屋を借りても自分の新しい家庭を作る気になれなかった。飼いたいけど“心は実家の猫とともにある”という感じでした」

— サバ美さんと出会いは?

「何気なく猫の里親募集サイト( http://www.satoya-boshu.net/ )を覗いていたら、NYへ連れていったタビちゃんにすごく似ている猫を見つけたんです。説明書きのところに“姫気質”と書いてあって、まさにタビちゃんじゃないか!と。さらには、一番最後に亡くなった『ぷぅ』と同じ手袋(手先の色が異なる模様)をしていたんです。『ぷぅ』は4匹の中でも優しくお姉ちゃんぽくて、性格が好きだったんです。初めて飼ったタビちゃんと優しかったぷぅちゃんの間をとったような子がいたので、一目惚れというか、すごく気になってしまって…。大きな家に住む家族の方が欲しいといっているのであれば、そちらを優先してもらっていいと思いつつ、ダメ元でサイトに掲載されていた保護団体(『ちばわん』http://animal-note.cool.ne.jp/ ) の方にメールを出しました」

— 一人暮らしで飼うことにはやはり戸惑いがあったのでしょうか。

「やっぱり“自分だけで飼えるのか、命を預かる責任を負っていいのか”としばらく悩みました。20年生きてくれるとしたら、自分が50才になるまで、ずっと一緒です。もし結婚して旦那さんが猫アレルギーだったらとか、子供が生まれたりだとか…人生には色々なことが起こるので、ずっと一緒にいられるのか不安になってしまって。でも、最初から“私は全部準備ができてます”という人はいないと思うんですよね」

— なるほど。悩みながらも運命の出会いをしてしまったのですね。

「はい。それで『ちばわん』が参加している里親募集の譲渡会に会いに行きました。今までも何度か“飼いませんか?”というお誘いや“飼い主を探しています”というようなメールをいただいたりしていたのですが、なぜか踏み切れなくて。でも、実際に会ってみたら、この子なら大丈夫!と思いました。昔飼っていた子に似ていたというのもありますが、なにより縁を感じたんです。最初からなついてくれたし、家に初めて入った時も、我がもの顔でのそのそと歩き回っていました」

— 出会った時、サバ美さんは何才だったのですか?

「歯の状態で3才くらいと言われていましたが、野良猫だったので実際の年齢はわからないんです。サバ美は『地域猫活動』といって、町なかに暮らす野良猫をこれ以上増えないように不妊手術し、基本は元のテリトリーに帰す、という活動をしている団体に保護されました。保護される前、サバ美は木にギュウギュウに縛り付けられていたこともあるそうです。そんないたずらをされていたにも関わらず、呼んだら“ニャ〜”って近づいてきたらしくて…。あまりにも警戒心がなく野良としては危ないので、里親募集をする愛護団体に引き取られ、飼い主募集に出されることになったそうです」

—『サバ美』という名前はどこから?

「すでに、保護した団体の方が『サバ美』と呼んでいたんです。呼んだら“ニャ〜”ってやって来るので、そのままなんですよ(笑)」

飼い主に似たのかも!? 潔癖性のサバ美

— Twitter( @miusakamoto)やご自身のブログでの登場するサバ美さんは、何事にも動じない貫禄のある風貌をしていますよね。

「気位が高いんです。姫気質で、なぜか偉そうなんです。でも、基本はとても人懐っこく甘えん坊で、ロケで長時間外出している時に餌をやりに来てくれる友人やキャットシッターさんには、最初から懐いていました。この間、初めて友人のお宅に5日間預けたのですが、さすがに人の家はびっくりしたみたいで最初は“ニャーニャー”とうるさく鳴いていたそうです。でもしばらくすると、慣れてきたのか写真を見せてもらったら、その住人の腕の中でだら〜っとして(笑)。そこまで慣れなくていいよ!って嫉妬しちゃいましたね」

— 一人暮らしで猫を飼う時には、周りにサポートしてくれる人がいると安心できますね。サバ美さんのお気に入りの場所はありますか?

「最近、キャットタワーを暖かい日の当たる所へ移したのでタワーの上にいることが多いですね。柱が爪研ぎになっているので、バリバリやっています。サバ美はあまり運動が好きではないみたいで、走り回ったりは全然しないんですよ。おもちゃも猫じゃらしなどには興味を示さず、リボンとかフワフワしたボンボンで遊んでいます」

— ご飯へのこだわりは?

「缶詰をあげても食べなかったので、今の所カリカリだけです。野良の時は、缶詰だと腐ってしまうので、多分カリカリしか食べたことがなかったのだと思います。最近はちょっとお腹がたるんできているので(笑)、『ロイヤルカナン』のカロリーオフのタイプと歯石が取れるモノを混ぜています」

— サバ美さんは食べ物にあまりこだわりがないのでしょうか。

「いいえ、新鮮じゃないと手をつけないんです。湿気ったり、自分の毛がちょっとでも入っていると嫌みたいで。そこはすごく神経質ですね。保護した団体さんが預かっていた時から潔癖性だったようです。お水の中にカリカリがちょっとこぼれてフヤけていたりすると、その水も絶対に飲まないし。“新しいの入れてよ〜”って文句を言われます(笑)」

— 相当キレイ好きなんですね。では、お風呂もよく入るのですか?

「実はまだ、お風呂に入れたことがないんです。一応シャンプーを買ってはいるのですが、嫌われたくなくて(笑)。実家の猫も十何年入れていませんし、入れない人も周りには多いですよ。自分でキレイにしますし、外にも出ないので。でも私がお風呂入っていると興味を示すので、今度試しに入れてみます…」

— 外に出たい!というアピールはありますか?

「あまり興味がないようなので、出さないです。でももし出てしまった時のために、マイクロチップを入れています。AIPO(動物ID普及推進会議)に登録されるので、ペットが迷子になって保護センターに持ち込まれた時、チップで飼い主を調べることができるんです。団体さんが里親募集で譲渡するときにも、チップを入れてから譲渡することが多いです。阪神大震災の時、保護されたペットが沢山いたらしいのですが、現地では混乱していてなかなか飼い主がみつからなかった。その時にマイクロチップが入った子たちは、きちんと再会できたそうです。東京でもいつ同じようなことが起こるかわからない。チップを入れることに賛否両論あると思いますが、脱走していなくなって会えなくなるのはとても悲しいですし、保護されて飼い主が現れなかったら、大体一週間ほどで殺処分対象になります。そのためにもチップは大切だと思っています」

動物を守るために、今できること

— 坂本さんは動物やペ

ットの保護活動も積極的にされていますよね。『FreePets〜ペットと呼ばれる動物たちの生命を考える会(通称ふりぺ)』の活動に参加したきっかけは?

「知り合いとの雑談の中で、六本木や歌舞伎町などの繁華街で見かけるペットショップの過酷な状況にいる子たちを救いたい!という話が持ち上がりました。その時に、たまたま父の知り合いで動物の保護活動をされている方がいて紹介してもらったり、Twitterのつながりで “動物を守りたい”という同志が自然と集まってきたので、きちんと『ふりぺ』として活動を始めてみようということになりました。まだ1年も経っていないのですが、動物の専門家や、実際に保護活動をしている方などに出会うことができました」

— 具体的にはどのような活動をしているのですか?

「今日本で行われている年間28万匹にものぼる犬猫の殺処分をなんとか減らすことを目標に、その現状とそのために身近にできることを広く知ってもらう活動をしています。動物虐待や過酷な状況でペットを扱ったり販売することに関して規制する法律がないので、まずは2011年の法改正に向けて、動物愛護法改正の署名を集めています。『ふりぺ』には様々な職種のメンバーがいるので、それぞれの得意分野で、広く現状を伝えていくことから始めています」

— “現状を知る”ということが、まずは第一歩ですね。

「はい。これからの『ふりぺ』の活動としては、“動物を飼うときはペットショップではなく動物相談愛護センターや里親募集の譲渡会などで引き取る”ということや、飼えなくても身近にできるボランティアについて、小学校や教育の現場で広めていくプロジェクトが立ち上がっています。また、チャリティーライブも企画中です。少しでも多くの人に、動物と幸せに暮らしていくことについてのきちんとした情報を伝えていきたいと思っています」

猫がもたらす幸福な時間

— 猫にまつわる本や作品で好きなモノはありますか?

「女性と猫ばかり描いたという画家・藤田嗣治の『猫の本』(講談社ARTピース)が好きです。また、動物写真家・岩合光昭さんの作品も好きですね。母が昔からのお友達なので、NYでは実家の猫を撮ってくれたりもしました。実は母が昨年出したアルバム『音楽堂』のジャケットは、岩合さんのジャンプする猫の写真なんです。それから、人間と猫と関係の歴史を追ったドキュメンタリー『ネコを探して』(ミリアム・トネロット監督)や『犬と猫と人間と』(飯田基晴監督)もおすすめです」

— 坂本さんが企画されているライブ『DIRECT MIUsical Vol.3』のチラシにもサバ美さんが登場しています。作品をつくる時には、やはり猫は欠かせませんか?

「そうですね。以前、『人生がうまくいくネコの9つの習慣』『ネコがよろこぶ“ゴロゴロ”のツボ』(ともにマーガレット ウッドハウス著)という外国の絵本を翻訳したことがあって。猫が生きて行く上での自己啓発本というか…猫にとっての哲学書みたいな、ちょっと変わった本です。その本にオマケでCDを付けたんです。NYで飼っていた子たちをテーマに『トラネコ』『シロネコ』いうタイトルで、クラムボンのミトくんと一緒に作りました。父も母もそれぞれ猫が題材となっている曲を作っていますし、自分の歌詞の中にも猫という単語が出てくることが多いですね。生活している時と同じように、作品の中にも猫はすっと入ってきます」

— 猫になりたいという願望はありますか?

「なりたいです! 野良に生まれたら大変だと思いますが…。猫は自分の与えられた環境の中で、ある程度の幸せを見つけるのが上手ですよね。猫のそういう所が好きなんです」

  • 名前: サバ美
  • 年齢: 推定3歳
  • 性別:
  • 品種: 雑種
  • 飼い主プロフィール:
    坂本美雨(さかもと・みう)
    ミュージシャン。9歳の時に両親(坂本龍一・矢野顕子)が音楽活動の拠点をニューヨークに移した事をきっかけに家族で移り住む。1999年、アルバム『Dawn Pink』で本格的に音楽活動を開始。以降アルバム『Harmonious』(2006年)、『朧の彼方、灯りの気配』(2007年)、『PHANTOM girl』(2010年)などをリリース。2003年年9月には初の詩画集『aqua』を創刊、07年10月には矢野顕子と共同で和訳した絵本『せかいでいちばんあたまのいいいぬ』を出版するなど、日本とNYを行き来しながらマルチな活動を続けている。2011年1月19日には、自身が主催・企画するライブ『坂本美雨 presents【DIRECT MIUsical Vol.3】』@ EATS and MEETS Cay(青山スパイラル B1)を予定している。
    オフィシャルブログ『のら猫よ、ちょっとお寄りよ』http://ameblo.jp/miu-sakamoto/
    Freepets http://freepets.jp