研究者・齋藤慈子 ☓ おから — 賢い猫の心理を知る

Sep 19, 2016 / Interviews

Photo:Kazuho Maruo(kiki inc) Edit&Text:Madoka Hattori

比較認知科学、発達心理学を専門とした研究を行っている、武蔵野大学教育学部児童教育学科の講師・齋藤慈子さん。ilove.catでは以前、「猫は飼い主と他人の声を区別しているのか」という、猫の研究にまつわる取材をさせていただきました。今回、齋藤さんの愛猫・おからさんが登場。クールな視線のおからさんと、齋藤さんの関係性について伺いました。

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猫と暮らしたいから結婚した!?

—おからという名前はどこから?

「保護猫として譲り受けた時、おからの猫砂を使っていて、そこから名づけました。ずっと猫を飼いたいなと思っていて、里親募集をしている知り合いに子猫がいるよと聞いて見に行ったんです。6ヶ月くらいでした。しっぽの先が白くなっていて、そこが気に入って決めました」

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—斉藤さんは、幼い頃から猫好きだったのですか?

「中学生くらいの時から、多い時は8匹くらい飼っていて、延べで23匹くらいは一緒に暮らしていました。実は、兄は犬が好きで、一度飼ったことがあったのですが、すぐに病気で亡くなってしまったんです。だからずっと猫と一緒でした。何匹もいると猫によって性格が全然違うんだなということを学びました」

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—それから、なぜまた飼おうというタイミングがやってきたのですか?

「実家をでてからは、ずっとひとり暮らしだったので飼えなかったんですね。仕事柄、どうしても家を空ける時間が多くて。でも博士研究員をやっていた時、朝8時から夜中の23時頃まで働いていて、これは生活に潤いが必要だ! と思ったんです(笑)。でも独り身だとほったらかしになってしまって可哀想だから、じゃあ猫好きな人と結婚しよう、と結婚することにしました。猫を飼うことが主目的で、結婚したようなものです」

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—おからさんは、あまり人見知りをしない性格ですね。

「家のつくり上、逃げるところがあまりないからかもしれません。あとは4歳と1歳の子どもがいるので、大人の人だと安心するのかも。やっぱり子どもだとグイグイいきますから(笑)」

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—お子さんが生まれて、おからさんは変わりましたか?

「おからと暮らし始めて4年くらい経って、長男を産みました。もともと控えめな性格ですが、より耐えるようになったかもしれません。おからは生まれた時から心臓が悪く、走り回ったりできなかったんですね。猫では珍しい病気で、たまに咳がでたり、呼吸が苦しそうだったり。だから他の猫とくらべて、とても大人しいほうだと思います」

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—お子さんにとって、猫と暮らす良い点は?

「動物のことが好きになりますよね。もちろん、虐待などをしないような子になってほしいですし。あとは最近、猫がどこを触られると気持ちいいのかをわかってきて、そこを撫でてあげるようになりました。人間同士で撫で合うことはあまりないので、おからがいるからこそ持ちえる感覚だと思います」

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自意識のある人間、自意識のない猫

—以前、斉藤さんの猫にまつわるレクチャー(http://ilove.cat/ja/9510)で「猫は2歳児くらいの知能をもつ」と伺いました。人間と猫の大きな違いはありますか?

「人間はある時から自分というものを認識し始め、自意識が生まれます。自分の名前が、自分と同一のものであると理解している。でも猫は、呼ばれたら振り返りますが、その名前自体が自分を指していると認識はしていないでしょう。でもたまに、誤って落ちたりした時、恥ずかしがったりはしていますけどね(笑)」

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—「猫は飼い主の声は聞き分けられるか」という研究(http://ilove.cat/ja/7962)もされていましたが、言葉はどれくらい理解しているのでしょうか?

「名前の“おから”や“ごはん”という単語は聞き分けられていると思います。でも“おから”と似たような長さの音で別の単語を聞き分けられるかどうかは、まだわからない。ちょうど今、研究をしている最中です。音ではなく、単語自体を聞き分けられているかどうか、実験しています」

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—音を聞き分ける能力というのは、人間と暮らし始めて得たものなのでしょうか?

「元来、音を聞き分ける能力はもっていたと思います。とはいえ、人間と生活してからより発達したのではないでしょうか」

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猫の行動を理解する

—なぜ猫の研究を続けるのでしょうか?

「私が猫の研究をはじめたきっかけは、生物に興味をもったからです。その中で、身近な猫という生き物を扱うことになった。猫に興味をもち、彼らの行動を少しでも理解してもらえたら、虐待や捨ててしまうといったことも減るのではないかと思います。猫って本当に賢い動物なので。とはいえ、猫の心理研究だけで食べていくのはとても大変です。獣医さんであればまた違うと思いますが。猫に限らず、人間とともに生きる動物の心理についての研究も、大事なことだと知ってもらえたらありがたいですね」

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—研究のために、いろんな猫に会われていると思いますが、猫によって違いはありますか?

「やはり性格が本当に違います。実は研究対象として、どんこさん(http://ilove.cat/ja/6209)にもご協力いただいているのですが、なかなか変わっている猫だと思います。人懐っこいのはもちろん、飼い主の井上さんのことが大好きで。井上さんがいるとずっと付いて行ってしまうので、実験が上手く行かないんですよ(笑)。飼い主さんとの絆や関係性も、それぞれ違いますね」

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—他にはどんな研究をされているのですか?

「いまは大学で、人間の発達心理学について研究し教えています。親になるとはどういうことか、といったことに興味があって。そもそも私は、猫はかわいいけど、人間の子どもは苦手だったんですね。どう考えても、赤ちゃんがかわいいと思えない。でも猫と赤ちゃんのかわいさは、同じものと捉えられて研究されています。そこに何かヒントがあるのではないかと。正直、子どもを産むまでは、自分の子がかわいいと思えるか不安だったのですが、実際に産んでみるとそれがコロッと変わった。しかも自分の子どもだけでなく、ほかの同年代の子どもに対してもかわいいと感じました。自分が体験したからこそ、なぜこのような変化が起きるのか、より研究したいと思ったいんです」

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—そういえば、犬好きな人が、猫と暮らし始めるとコロッと猫派になる人も多いですよね。

「それは猫が特定の人にしか心を開かないからだと思います。犬好きの人は、猫は愛想がないと思っているんですね。でも一緒に暮らし始めると心を開いて、愛情全開でものすごく甘えてきたりする。その変化にやられてしまうのではないでしょうか(笑)」

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—その駆け引きは、意識的にやっているのでしょうか?

「親しくなるまでのハードルが高いんですよね。わざとやっているというよりは、本能として、受け入れるまで時間がかかるだのと思います。ある境界を超えるとベッタリする。別にそこまで人間に媚びなくてもいいわけで、不思議な行動のひとつだと思います」

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  • 名前: おから
  • 年齢: 9歳
  • 性別:
  • 品種: 雑種
  • 飼い主プロフィール:
    齋藤慈子(さいとう・あつこ)
    武蔵野大学教育学部児童教育学科、講師。専門は比較認知科学、発達心理学。ヒトを対象とした研究のほか、マーモセットの養育行動や、ネコの社会的認知などの研究などを行っている。猫に関する著書に「飼い猫のココロがわかる 猫の心理」(西東社)がある。