イラストレーター・長崎訓子 × そよ&ゴン太 — 黒猫に魅せられて

Feb 25, 2011 / Interviews

Photo: Shin Suzuki / Edit&Text: Madoka Hattori

ilove.catに登場する猫のイラストを手がけるイラストレーターの長崎訓子さんは、2匹の黒猫・そよさん&ゴン太さんと暮らしています。人見知りをしないそよさんは、カメラの前で遊んだりご飯を食べたりと、愛嬌のある表情を見せてくれました。一方、ゴン太さんはカメラから逃げるように、靴箱の下や棚の後ろにササッと隠れてしまい、なかなか出てきてくれません。長崎さんの愛情をたっぷり受けた、全く性格の異なる2匹の黒猫の登場です。

悲しみを乗り越えて出会った2匹の黒猫

—2匹の猫との出会いは?


「8年前、母親が黒い猫を拾ってきて飼っていました。『ろくたろう』という名前で、半ば母親に押し付けられた形で飼い始めたんです。ところが4歳になる直前に、リンパ腫で亡くなってしまって。すごくショックでペットロスになってしまったんです。しばらく悲しみに暮れていたのですが、猫がいない悲しみは猫でしか埋めることはできないと思い、里親募集のサイトで猫を探しました。ようやく見つけた黒猫が、そよでした。ろくたろうと同じ黒いオス猫を探していたのですが、そよはメスで白手袋もあったので正直迷いました。でも、実際に会ったら気に入ってしまい、保護活動をされている方もすごくおおらかでいい方だったので、そのまま連れて帰り飼うことになりました」

—なるほど、ではゴン太さんとは?


「ろくたろうのショックがとても大きかったので、1匹に愛情を注ぎ過ぎるとよくないと思い、2匹飼うことにしました。また、日中は事務所で仕事をしているので、1匹だと淋しいかなという気持ちもありましたね。次は絶対に黒のオス猫が飼いたいと思って探していたのですが、なかなかみつからなかった。そんな時、そよのワクチンを打ちに行った動物病院で、保護している黒猫の赤ちゃんがいるという話を聞いたんです。それがゴン太との出会いです。ゴン太はお腹がゆるくて、きちんとお腹の病気が治るまで渡せませんといわれて、出会ってから半年後くらいに引き取りました」

—『ゴン太』はどちらかというと犬の名前のイメージですが、名前の由来は?


「そよの時は悩みすぎてすごく時間をかけてしまったので、早くつけようと思って、ゴン太にしました。特に意味はないのですが、病院の人が『波平』って呼んでいたので、少し影響されたのかもしれません。そよは、くらもちふさこさんの漫画『天然コケッコー』の主人公の名前なんですが、語感がいいなと思って決めました」

全く性格の違う、そよとゴン太

—最初にそよさんが居て、それからゴン太さんが来たのですね。2匹目を飼う時は相性など気になりますが、問題はありませんでしたか?


「そよは割とフレンドリーなので大丈夫でした。私自身は、幼い頃から猫を飼っていて、最大で4匹の猫が居たこともありました。昔ながらの自由な飼い方で、餌は家で食べるけどトイレは全部外でした。そういう飼い方をしていたので、あまりお世話をした記憶がないんです。でも今は2匹とも室内で飼っているので、すごく手間をかけています。そよは普段は大人しいのですが、2匹で暴れだすと大変です。明け方5時くらいに、2匹で追いかけっこをして、寝ている私のお腹にドーン!って乗っかってきたり(笑)。夜は寝て欲しいんですけど…まだ3歳なので、遊びたい盛りみたいです」

—猫のおもちゃが沢山あるお部屋がありますよね?


「わざわざ猫部屋を作ったわけではなく、妹が住んでいた部屋が空くことになったので、猫の遊び場にしてみました。置く場所があるとキャットタワーなど、ついつい色々と買ってしまうんです。でも、新しいおもちゃを買ってきても結局は、ヒモとかよくわからないモノで遊んでいますね(笑)」

—ご飯へのこだわりは?


「カリカリと缶詰を半々くらいです。化学薬品などを使わない自然食のキャットフードを扱っている『わんにゃん応援団ぽのぽの』という通販サイトで買った『ソリッド・ゴールド』という缶詰をあげています。パッケージもかわいいので気に入っています。あとは『ねこ生活』の『ねこ缶』とか。飽きないようにたまに違う味のものを試しています。カリカリは、尿結石にならないように病院で勧められた『ヒルズ』の『プリスクリプション・ダイエット』を基本に、『ソリッド・ゴールド』のカリカリなど2〜3種類の餌を混ぜています。お皿は、恵比寿三越にある『ジョージ』というペットグッズのお店で買いました。ゴン太はすごい勢いで食べるので、重いお皿でないと動いてしまうんです」

—トイレは3カ所にありますね。


「そよは女の子だからか、ゴン太が使ったトイレを嫌がるので多めに用意しています。トイレの砂は『トフカスサンド』というおからの砂を使っています。以前は紙の砂を使っていたのですが、知らないうちにゴン太が砂を食べていたことがあって。ゴン太はお腹が弱いから少しずつ餌をあげていたのですが、逆にお腹が空いて食べてしまったみたいです。それから紙の砂を止めて、食べないように色んな砂を試して『トフカスサンド』に落ち着きました」

—ゴン太さんはかなり繊細な性格なのですね。


「アレルギー体質みたいで、夏になると乳首を舐めて赤くかぶれてしまい、毎週のように獣医さんに通っていました。そよは全然大丈夫なのですが、ゴン太は手がかかりますね。でも2匹とも仲が良く、喧嘩をして引っ掻いたりはしません。どちらかというと、人が良くて天然ボケな猫たちです」

猫の絵を描くのは難しい!?

—黒猫グッズも沢山ありますね。やはり黒猫に魅かれる何かがあるのでしょうか。


「事務所にも沢山あるのですが、友人が作ったあみぐるみや、犬用のおもちゃなど、黒猫グッズは山ほどあってキリがないので、なるべく気に入ったモノだけ手元に置くようにしています。ユトレヒトのプロジェクトMUJI BOOKS(銀座松坂屋)で見つけた『MITTENS&GLOVES』は、2匹の黒いソックス猫が描かれていて、手書きのように裏移りしている印刷など、細かい所にこだわりがあるのでとても気に入っています。あと、レイ・ブラッドベリの『猫のパジャマ』という本は、装丁の一部が猫耳みたいな仕掛けになっており、本としても可愛いのでおすすめです。ほかにも友人が見つけてくれた、そよにそっくりな猫の写真のレコードや、猫が登場するレコードを集めた『猫ジャケ2』とか。ジャズミュージシャンのことをキャットといっていたようで、ジャズのレコードジャケットには猫が使われていたようです。絵本の『あおい目のこねこ』は、猫の描き方を考えていた時に、ちょっと表情や動きが変わっているので参考にしていました」

—イラストのお仕事では、猫を描く事が多いのですか?


「『黒体と量子猫』という物理学の本の表紙では黒猫を、動物病院に配る製薬会社のカレンダーでは色んな種類の猫を描きました。ほかにもイギリスの画家、エドワード・リアのフクロウと猫が登場する物語《The Owl and the
Pussycat》をモチーフにした、オリジナルのクッションなども制作したことがあります。とはいえ、実際はあまり仕事で猫を描く事は少ないですね。もちろん、“猫を描いてください”というオファーがあれば描くのですが、自分から進んで猫を提案することはほとんどありません」

—なぜ、あえて猫を描くことを避けているのでしょうか?


「猫を描くことは好きなのですが、意外と難しいんです。犬の方が、大きい犬や小さい犬、顔も細長かったりクシャッとしていたりと、フォルムのバリエーションが豊かで描きやすい。猫にも長毛などの種類はありますが、基本的な形は一緒です。多少、柄で差をつけたりするくらいで、新しく開発するのがなかなか難しいんですよ。さらには、猫だと色々と思い入れがでてきてしまうので、犬のほうがドライに描けるのかもしれませんね」

ilove.catで使用しているTwitterのアイコンは、鳥を捕まえようとする猫の動きがとてもリアルです。猫を描く時はじっくり観察するのですか?


「色んな種類の猫をみて、どういう猫にするか考えます。Twitterのアイコンに使われているシャム猫は、顔や手足に黒いポイントがあるので、小さくなってもシルエットが見えやすくバランスがいいんです。また、顔が徐々に黒くなっていくFacebookのアイコンは、そよがモデルです。やはり実際に飼っているので、動きがいいねと褒められることは多いですね。本当はアイコン用にモジャモジャの猫も描いたのですが、一般的な猫のイメージに見えなくて。そよは細くて猫らしいクネクネした動きをしてくれるので、シルエットなどはすごく影響を受けていると思います」