女優・室井滋×5匹の猫 — 私と猫の濃密な関係

Sep 29, 2011 / Interviews

Photo:Shin Suzuki Hair&Make:Masao Suzuki(MARVEE) Edit&Text:Madoka Hattori

マーキングブルース』『ニャンちゃって漫画 平凡キング』など猫が登場するエッセイをはじめ、猫好きで知られる女優・室井滋さん。茶トラ柄のチビさんとコロさん、キンちゃん、シロさん、タマさんの5匹と暮らしています。カメラ慣れしているチビさんは、堂々とした風貌でポーズをキメたり戸棚を開けるパフォーマンスを披露。室井さんの愛情をたっぷり受けた猫たちの暮らしを取材しました。

室井家にやってきたキュートな子猫

ー幼い頃から猫を飼っていたのですか?

「子どもの頃は猫がすごく怖かったんです。田舎だったので野良も多くて、なかでも近所のタマという猫に付きまとわれていて、当時の写真に必ずタマが写り込んでいるんですよ。とにかく猫が怖くて、泣いている写真ばかり残っています(笑)。インコや金魚などの小動物は飼っていましたが猫は苦手で、犬もあまり触れたことはなかったです」

ーいつ頃から猫に興味をもつようになったのですか?

「東京に出て来て、大学3年生の頃に子猫をもらったんです。その時は自分ももう子どもじゃないですし怖くはなく、子猫が可愛く思えてミャーミャと名付けて飼いはじめました。可愛がっていたのですが、1年くらいで亡くなってしまって。かなりショックで、やはり動物は死ぬから辛いなと思ったのでしばらくは飼いませんでした。チビに出会ったのは、前の家に住んでいた時です。3日間外から泣き声が聞こえてきて、野良猫だと思っていたのですが、だんだんか弱くなり、助けを呼ぶような泣き声になったので見に行ったら子猫がウロウロしていたんです。お腹が空いているのかなと思いミルクをあげたのですが、緊張していたのかウトウトしたと思ったらハッと目を開けたりして、その姿が本当に可愛いくて…。でも自分は忙しいから飼えないので誰かに飼ってもらおうと、撮影現場に連れて行ったんです。制作の人が飼いたいと言ってくれたのですが、返事を3日程待っている間にチビの可愛いさにやられて手離せなくなり、自分で飼う事にしました」

—なるほど。意図せず、チビさんは室井さんの家で暮らすことになったと。

「最初は忙しいから無理かもしれないと思っていたのですが、うちの事務所の女社長が猫好きで、昔から野良ちゃんを飼ってと言われていて。私が“猫なんか飼ったら大忙しで女優ができなくなる”と言ったら“じゃあ女優を辞めなさい”っていうくらいの猫族なんですよ(笑)。だから、飼うことになった時には泣いて喜んでいました。一緒に暮らし始めて、生活も180度変わりました。飲みにもあまり行かなくなりましたし、寝付きもよくなりましたね」

—チビさんはどんな性格ですか?

「すごく利口です。飼い始めた頃は、よく撮影現場に連れて行ったので人見知りもしないです。現場でキレイな女優さんに会うと、小首をかしげてチューをしたり(笑)。戸棚も自分で開けてしまうくらい、賢いんですよ。だから、家の取っ手はあえて縦型にしています。お風呂も好きみたいで、一緒に入って泳ぐんです。チビを飼ってから、しばらくして5匹の野良猫がやってきた時、病気をしたことがありました。尿道結石になってしまい、治療をして同時に去勢もしたんです。子猫の時から一緒であれば問題はなかったのかもしれませんが、一気に5匹も増えたのでストレスが溜まったのかもしれません。今はもう平気で、みんなで一緒に寝ています」

傷ついた猫たちを受け入れる

—チビさん以外の猫たちが、室井家で暮らすことになった経緯は?

「チビを飼いはじめてから、よその猫たちにも興味を持つようになったんです。たまたま、近所で足から血を流した猫を見かけて、保護して医者に連れていこうと思ったのですが逃げてしまうので、とりあえずご飯を家の前であげていたら、近所中の猫が13匹くらい集まってきてしまったのです。ようやく保護して獣医師さんの所に連れて行き、その子は知り合いの看護士さんが飼ってくださる事になりました。そうこうしている間に、近所で足の無い猫が何匹も見つかったんです。これは人間が罠を仕掛けて虐待しているに違いないと思い、ボランティアの人や役所の方と相談してチラシを作り、自分で近所の家にポスティングをして歩きました。でもなかなか犯人が捕まらず、徐々にその猫たちに情が湧いてきて、また足を切られたらどうしようと考えると外に置いておけない!とたまならい気持ちになりました。とはいえ、13匹全部は飼えないので五体満足で持病のない元気な子たちから里子に出し、ロング、コロ、キンちゃんをうちで引き取ることにしました。しばらくして、近所の方が経済的な理由で飼うのを放棄した姉妹のシロとタマが、うちにご飯を食べに来るようになったので、彼女たちも一緒に飼うことにしました」

—今は5匹ですが一時は6匹の猫たちと一緒に暮らしていたんですね。

「ロングという長毛の猫は、糖尿病で亡くなりました。5年間インスリン注射の治療をして、人間でいえば20年近くも治療を続けていたわけですが…。10kgあった体重が最後は2kgにまで減ってしまいましたが食欲はとても旺盛で、亡くなる前の日までマグロをおいしそうに食べていました。私は男性と二人で暮らしているのですが、彼が不器用なのでインスリンは私しか打てず、食事制限のこともあり、ロケのために長期で家を離れる時には病院に預けていたんです。その病院で、退院する時に必ずこのスカーフを巻いてくれたんです。なんとなくお出かけしたような楽しい気持ちになるんですよね。他の5匹は和猫なのですが、ロングは多分クオーターだったのかも。外国の血が入っていました。ハンサムだったので、こういうお洒落が似合ったんですよ。5年の間に沢山のスカーフをもらいました。他の子たちは野良出身なので首に巻くのを嫌がるのですが、ロングだけは嫌がらず、亡くなる半年前には痩せてしまったので寒さ対策として洋服も着せていました」

—他の猫たちはどんな性格ですか?

「コロちゃんは私のことが大好きで、お客さんがいなければ一日中金魚のフンみたいにベッタリとくっついています。一途に滋LOVEなんですよ(笑)。性格もすごくよくて、他の子にご飯をとられても怒らず、ロングの治療中にはずっと舐めてあげていたりと一番優しい性格。キンちゃんは女の子なので気性は激しくてちょっと人見知りです。でも大きな音が鳴っても驚かなかったり、肝が据わっているのかもしれません。シロは後ろ足がなく、保護してから半年は全く私にもなついてくれなかったんです。それがある時、ご飯の支度をしていたら背中にピタッてくっつく子がいて、シロだとわかり号泣しました。少しずつ距離が近づいていたのはわかっていたのですが、嬉しかったですね。今は一緒に寝るくらい心を許してくれています。姉妹のタマはシロをかばっていて、いつも2匹一緒です」

—喧嘩はしませんか?

「同じ地域の猫だったからか、ほとんどしないですね。でもこないだキンちゃんの爪を切ろうとして、キンがギャーギャー騒いでいたら、チビは私がいじめられていると勘違いして、キンちゃんのことをパーン!って叩いたんです。しかも馬乗りになって噛もうとするから、“私がいじめられているんじゃなくて、爪を切ろうとしただけよ。キンちゃんは悪くないのよ!”って止めに入って収めました。チビは、私のことを守ろうとしてくれているみたい、自分が親かダンナのつもりなのかもね(笑)」

すべては猫たちを中心に回っている!?

—猫たちのために、工夫されていることはありますか?

「2階の吹き抜け部分にガラスのフェンスを渡してあったのですが、ある時そのガラスのフェンスの上をチビが歩いていて、吹き抜け側にすべって落っこちそうになったんです。ギリギリで助けたのですが、それからガラスを止めて竹格子で全部覆いました。また、寝室を閉めても自由に出入りができるように、猫用ドアを作りました。うちのトイレは猫の本棚になっていて、何かあればすぐに調べられるように病気の本などを揃えています。朝起きると庭にでるので、木箱に砂を入れてトイレにしたり。みんな野良出身だから土が落ち着くみたいで、庭では虫を捕まえたりしています」

—ご飯のこだわりは?

「他の4匹は一緒にご飯を食べるのですが、チビだけでは離れた所で食べます。基本的にそれぞれのお皿を用意し、水飲み場は4カ所に置いてあります。ご飯の種類は、これしか食べない!と決めてしまうと発売されなくなったり、急に違うものを食べたら体を壊してしまうかもしれないので、少しずつ違う種類のものをミックスしています。ロングを治療している時、いざとなると食べてくれないといけないのだと学んだので、高タンパクのものやチューブ状の栄養剤も常備しています。それぞれの子たちが、何が好きかもちゃんとチェックしています。毛玉はフードで溶かしたほうがいいと言われるのですが、猫草を道で摘んできて庭で育てています。やっぱり、市販の猫草よりも自然なもののほうがいいみたいですね」

—お気に入りのおもちゃは?

「みんな爪研ぎの棒が好きでこれは2台目です。キャットタワーやねこじゃらしなど一通りあります。チビは富山のしいたけが好きで、またたびみたいにずっと匂いを嗅いでいるんですよ。小さなネズミのおもちゃも大好きで、ダッシュしてとってきてはまた投げてというのを何度も繰り返していたのですが、大人になってこれがオモチャとわかったのか、最近は見向きもしなくなりました(笑)」

—猫グッズは集めていますか?

「ついついグッズは沢山集めてしまうんですよね。中でも、ロングに似ているフランスの画家Finiが描いた猫の絵や、絵本『しげちゃん』の絵を描いてくれた長谷川義史さんのチビが登場する絵は大切にしています。久下貴史さんの絵が好きで、バッグにサインをいただいたり、洗濯場にも久下さんの猫の絵のタイルを貼っています。また、自分でタイルに描いたタマ・チビ・ロングの絵を、お風呂場に飾っています。窓にも猫の鉄格子を使ったり、家中が猫グッズに囲まれていますね」

猫と人間の濃密な関係性

—室井さんは猫との暮らしをエッセイや本に書かれています。何かきっかけがあったのでしょうか?

「子どもが産まれると写真を撮りたくなるように、全くカメラに興味はなかったのですが、猫たちをどんどん撮影したくなるんですよね(笑)。そのうち写真集を作りたいなと思って企画を出し、『チビのお見合い』を出版することになったんです。それからチビに取材が殺到するようになりました。とても行儀はよかったのですが、ある時スタジオですごく嫌がった時があって。ちょうど1歳になる頃ですね、そろそろ限界かなと思い二度と連れださなくなりました。でも本当は写真を撮られるのが好きで、今日は久しぶりにプロのカメラマンさんに撮影してもらって自信満々で嬉しそう(笑)。チビたちを飼いだしてから、猫友達が増えたんです。特に一人暮らしの女性やおばあさんで猫を飼っている人。その人と猫との関係性が濃厚で、人間と人間の関係以上に深いなと興味が湧き、『マーキングブルース』を書くことにしたんです」

—人と猫とのどういった関係に魅かれたのでしょうか?

「猫との関係って、すごく個人的なことですよね。一緒に暮らしていても、私と猫たちの関係と、うちのオジさんと猫たちの関係は違います。さらに一番の親友でさえ、私と猫との関係を100%理解してもらうことはできないんですよね。人様には言えない関係性というか。でも、この深い関係を人に理解してもらう必要はなくて、自分だけは死んでも忘れないのだろうと思っています。ロングの話になりますが、うんと濃密な関係になったのはやはり病気をしてから。朝晩インスリンを打って、常に体調のことを考えながら暮らすということは、私が彼を支えているような気持ちになるし、猫は猫でそのことをきちんと理解している。治療の意味を理解しているから、インスリンを打とうとするとお尻をつきだしたり。そういう医療行為までやる関係を続けていたので、自分の体の一部みたいに感じていました。もう亡くなって丸二年になるのですが、たまに幻影を見てしまうんです。他に5匹もいるのでペットロスというほどではないと思ってはいるのですが、やはり淋しい。ロングはロングなんだなと。こういう気持ちは、他人から見たら感傷的で間抜けなことに見えるかもしれない。でも、人に解ってもらう必要なんかないんです。自分と猫との間だけのことなんです。きっと、猫を飼ったことのある人なら誰でも、こういう気持ちを少なからず持っているのでは、とも思います」

【室井家の猫たち】写真:室井滋

チビ

コロ

キンちゃん

シロ

タマ

ロング

  • 名前: チビ/コロ/キンちゃん/シロ/タマ
  • 年齢: 12歳/推定14歳/推定12歳/推定9歳/推定9歳
  • 性別: 雄/雄/雌/雌/雌
  • 品種: 雑種
  • 飼い主プロフィール:
    室井滋(むろい・しげる)
    富山県出身。早稲田大学在学中に映画デビュー。「居酒屋ゆうれい」「のど自慢」「OUT」「ヴィヨンの妻〜桜桃とタンポポ〜」などで数多くの映画賞を受賞。12月10日全国公開の映画「源氏物語-千年の謎」に出演。また、著書本を多数発表。近著に初の絵本「しげちゃん」(長谷川義史・絵/金の星社)、「すっぴん魂大全 紅饅頭/白饅頭」(文藝春秋)、「マーキングブルース」(MF文庫ダ・ヴィンチ)など。現在、NHK BSプレミアム「週刊ブックレビュー」の司会を月に1回担当。また、DVD「どスコい座り猫、まる。」のナレーションを担当。