アートディレクター・大島依提亜× ひゃっこ — いつも驚きをくれるファニーな生き物

Jun 20, 2012 / Interviews

Photo:Shin Suzuki Edit&Text:Madoka Hattori

映画「百万円と苦虫女」「かもめ食堂」や「レンタネコ」のグラフィックデザイン、また不思議顔をした人気猫〈まこ〉や写真集「みさおとふくまる」のブックデザインなどを手がけるアートディレクターの大島依提亜さん。左右で目の色が異なるオッドアイのひゃっこさんと暮らしています。かつて犬派だったという大島さんを虜にした、愛猫ひゃっこさんの魅力に迫ります。

—ひゃっこさんとの出会いは?

「ある日突然、中庭にひゃっこが現れたんです。それまで猫は全く興味がなかったのですが、この猫なら飼ってもいいかなと思ったんです。最初は家に出入りするくらいで、飼っているという意識はありませんでした。しばらくして、お腹に傷ができて膿んでしまい、どうしていいかわからずに獣医に連れて行ったんです。処置をしてもらったら、獣医さんに、ばい菌が入るのでもう外に出さないでくださいと言われて。飼っているわけではなかったので迷ったのですが、これも何かの縁だなと、2週間くらいは家の中で面倒をみることにしました。傷が治れば、外に出してあげればいいかなと考えていたのですが、2週間経ったらすっかり虜になってしまって(笑)、結局うちで飼うことになりました」

—元々、野良猫だったんですよね。家の生活にはすぐ慣れたのですか?

「最初からトイレも場所を覚えてやっていたので、もしかしたら飼い猫だったのかもしれません。おどおどしていて、あまり外慣れしていない印象でした。野良でたくましく生きているタイプにはみえなくて。最初に家に入ってきたときも、本棚の後ろに隠れてしまい、なかなか触らせてくれませんでした。徐々に慣れてきてからは、そんな様子はないですね」

—名前の由来は?

「妖怪っぽいなとおもって百鬼夜行から。ほかにも百の由来というか、沢山いる子のなかのひとりである、という意味もあります」

犬派から猫派へ転身!?

—以前に、猫を飼いたいと思ったことはなかったのですか?

「実は、ずっと犬派だったんです。小さい頃から柴犬の雑種を飼っていたのですが、親友がシャム猫を飼っていて、いつも犬派と猫派で本気で口論していたくらい(笑)。そうはいっても、動物は好きなので、猫が嫌いというわけではなかったのですが、全く興味を持てなかった。実家で飼っていた犬が亡くなってからは、ペットを飼うこともなかったですし。でもひゃっこに出会ってからは、犬派の人と戦うくらい、もうすっかり猫派です」

—ひゃっこさんと暮らし始めて、猫派の気持ちがわかるようになったとか?

「その親友は猫について、神秘的であり神々しさがあるとアピールしていたのですが、ことごとく裏切られましたね。犬は忠実で、ちょっとヌケているところもあります。でも猫は、犬以上にファニーな生き物。ひゃっこが特にそういう性格なのかもしれませんが、天然なんですよ。ほかの猫を飼ったことがないので比較が出来ないのですが、飼い始めたころは、しょっちゅうジャンプに失敗したり、毎日爆笑していましたね」

—ひゃっこさんは、左右の目の色が違うオッドアイですよね。

「目の色も左右で違うのですが、ヘミングウェイ・キャットと呼ばれる手足の指の数が多い猫です。初めて飼ったのがこの猫なので、最初は普通の猫との違いはわかりませんでしたが。オッドアイの猫はよく、内蔵などに疾患があるかもしれないと言われるようですが、検査をしたら特に問題ありませんでした」

—ごはんやトレイのこだわりはありますか?

ロイヤルカナンのカリカリをあげています。トイレは街の雑貨屋さんで購入しました。砂はユニチャームのデオサンド。たまにウンチをボロボロこぼしてしまいちょっと困るときも。あとは玄関の角だけガリガリと爪研ぎをしてしまうので、カバーをしています。それ以外は特にいたずらもしません。お気に入りのおもちゃは、写真集『みさおとふくまる』のカメラマン 伊原美代子さんにもらった猫じゃらし。ものすごく飛んだり走ったりと、大のお気に入りです」

猫が猫を呼び寄せる

—大島さんは「まこという名の不思議顔の猫」のデザインをはじめ、猫にまつわる仕事も多いですよね。

「最近では、映画『レンタネコ』の宣伝美術やサウンドトラックのCDジャケットのデザインなどを手がけました。まこの本を手がけた当時は、猫を飼っているということも言っていなかったのですが、猫を飼う前には、猫関連の仕事はなかったので、呼び寄せているのかもしれません」

—実際に猫を飼っていることで、デザインに影響することはありますか?

「まこの本のノンブルをよくみると、虫が付いています。実は、レイアウトを組んでいる時に、ひゃっこがノンブルを手で掻いていたんです。きっと虫に見えているんだと思って、それをデザインに生かしました。またブックインブックも猫用のためにデザインしたり。やはり側に猫がいることならではのアイデアが出ることもありますね」

—巷に溢れる猫グッズなどには興味ありますか?

「犬はまだ洒落たモノや文化として成り立っていますが、猫はまだまだそういうモノが少ない気がします。でも、今までは気にも留めなかったのに、ペット量販店にあるようなファンシーなカレンダーやグッズなどに、グッときてしまう。ほかにも、映画『キャッツ&ドッグス』はストーリーとしてはさして面白みがないのですが、ついつい最後まで観てしまったり。猫が出ているというだけで、すっかり甘くなってしまって……。カワイイという概念に関しても、猫を飼い出してから、かなり狂ってしまったかもしれません(笑)」

—大島さんが考える、猫の魅力とは。

「僕は、ひとくくりに“猫”として考えられない。やはりひゃっこはひゃっこという生き物なんです。野良猫をみても、同じ動物という意識はあるのですが、全く違う。猫は、人間と一緒に暮らす動物の中ではとても特殊な生き物だと思います。昔飼っていた犬は外飼いだったので、動物と苦楽を共にするというのは初めての体験です。朝起きて、猫が居ることに、未だに慣れない。触り心地だったり、重みだったり、その都度びっくりするんです。鼻の頭の湿り気ひとつとっても、はかなさを感じる。それが故に、猫が不在になるとマズいなと。ひゃっこもう14歳なので、この先のことを想像してしまうんです。普段、腕があることは意識せずに生活していますが、無くなったらとても喪失感を生むと思います。その感覚と近くて、ひゃっこはすでに自分のパーツになってしまっている。この感じは、猫と自分だけの関係性であって、誰にも共有できないことだと思うんです」