【猫のなぞに迫る!】〜麻布大学 獣医学研究科 [前編]

Oct 23, 2012 / Topics

Tags: column

Photo:Kazuho Maruo,Text:Sawako Akune

【猫のなぞに迫る!】 〜麻布大学 獣医学研究科 [前編]

「猫は夢をみるの?」
「飼い主の言葉は理解している?」

猫と暮らしていると、さまざまな疑問がでてきます。そこで、twitterFacebookに寄せられた猫にまつわるたくさんのなぞを、猫の行動学を研究している、麻布大学 獣医学研究科 動物応用科介在動物学研究室・大谷伸代先生、獣医学科 微生物第一研究室・宮地一樹先生におうかがいしました。

後編はこちら。
http://ilove.cat/ja/5893


1.猫という動物

―猫がほかのペットと違うところはどこですか?
ペットは今多様化しているので、猫だけがこうだ、と言い切るのは難しいと思うのですが、長くペットとして人間のそばに生きてきた犬と猫とで比較するとすれば、人間による選抜がどれだけ加わっているかが大きな違いです。犬は繁殖を人間が管理し、チワワからドーベルマンまで、人の役に立つためにさまざまにかたちを変えてきました。猫にはそういうことはなく、サイズやかたちは、種によって大差ありません。

それから、基本的には犬は群れの動物、猫は単独行動の動物という点も違いますね。猫は犬ほど人との結びつきは強くありません。とはいえ個体差はあって、猫によってはすごく甘えん坊なコもいますから、いちがいには言えないのですが。

―インドの猫はカレーを食べると聞きますが本当ですか?
人間の周りで暮らしてきた動物ですから、エサとして残飯を食べてきたという歴史は大きいでしょう。インドの猫はカレーを、イタリアの猫はパスタを食べるというのは聞いたことがあります。猫の好きな食べ物を聞かれたら、日本人の8~9割の人が「魚」と答えるでしょう。でも普通に考えてみたら、猫に魚を獲れるわけがない(笑)。ネズミとかなら現実的でしょうが……。これも、魚中心の日本の食事が大きく影響しているのではないでしょうか。

海外にちょっと面白い研究があって、猫の味の好みを調べているのですが、それによると一番好きなのが羊。次に牛、馬、豚、鳥で最後に魚が来る。この結果も日本だと魚が上位に来るかもしれない。過去に何を食べているかは、猫の嗜好に大きく関わってきます。

ただし、冒頭のインドカレーについては、食べさせるのは全くお薦めできません。香辛料もタマネギも塩分も猫の身体にはよくありませんから。とはいえ魚も食べ過ぎると黄色脂肪症という病気になってしまいます。何にせよ、偏食・過食はいいことではないんです。よく言われるネギ類や甲殻類、チョコレートなどといった食べ物のほかに、猫が意外とよく食べる植物のなかにも、毒になるものは多いので気をつけてください。たとえばシクラメン、ユリ科全般などはダメなんですよ。

2.猫のコミュニケーションのなぞ

―猫って飼い主の言葉は理解してるんですか?
人が人の言葉を理解するようには理解できないと思います。悪いことをしたときに「こら!」と言うと「にゃあ」と鳴くようなことは、言葉ではなくて感情の気配を感じているのでしょうし、エサをあげるときに「ごはんだよ」と呼びかけると寄ってくるとか、おやつが欲しいときに足もとに言ってにゃあと鳴くとか言ったことは、言葉というよりは“音”とそれがもたらす結果を学習している。ある音が出たときに、こうすればいいということを覚えているんですね。ごはんが食べたいときに足もとでにゃぁにゃぁ言うといいとか、撫でてほしいときは見上げて甘えればいいとか、猫の方で分かっているんですよ。そういう意味では人間の方が操られている(笑)。夢のない話に聞こえるかもしれないけれど、飼い主さんと猫の関係でコミュニケーションが成立していれば、それはとてもいいことだと思います。

ー猫は人間1人1人を見分けることができるのでしょうか?
間違いなくできます。見た目よりは匂いや音によるものが大きいでしょうね。嗅覚は犬に負けず劣らずいいですし、聴覚は図抜けていいんです。人間と共に生きる動物ですから、ごはんをくれる人とそうでない人、またかわいがってくれる人とそうでない人は見分けなくてはいけないんです。

―猫には、霊感があるのでしょうか。夜とかに、何もないのにしばらく見続けていることがあるので、 何か見えてるのではと思うのです。
前の質問と少し重なりますが、何かが見えているというよりは何かが聞こえているのだと思います。人間はもちろん、犬より抜群に耳はいいので、たとえば壁の中の配管を流れる水の音とか、電気製品がたてるかすかな音とかいうような、ほんのわずかな音が聞こえているのではないでしょうか。霊感があるかどうかは……ちょっと分かりませんね(笑)。霊が立てている音があるかもしれない。それはなんともいえません。

―我が家の猫は夫に異常に攻撃的です。猫には上下関係のような区別をするのでしょうか?
猫は元々が単独行動の動物なので、優先順位はあまりつけません。もし誰かが特に嫌われているとしたら、知らないところで何か嫌がられることをしたんだと思います。このケースで、もしご主人ケガをするほどに猫が攻撃的なのであれば、なるべく早く対処した方がいいですよ。攻撃は恐怖から来ていますから、猫がものすごいストレスを受けているということなんです。四六時中恐怖にさらされているのはよくありません。恐怖の原因をしっかりとつきとめて改善するためには専門的な知見が必要なので、動物行動学の専門の医師の診察を受けた方がいいケースもあるんです。

―最近猫が突然トイレを使わなくなってしまいました。どうしてでしょうか。
これも先ほどと一緒。必ず何か理由があるはずです。たとえばおしっこをしている時に飼い主がドタドタと歩いてきた、みたいなことが理由になりうるんですよ。どんなに心配しても、些細なことすぎて気づかなければ、粗相は治らない。飼い主さんが困る問題行動の大半は、猫のストレスの現れ。そのことを自覚しましょう。

―猫同士は会話していますか?
しています。会話というよりはコミュニケーションという表現の方が正しいでしょうが、音、匂い、ボディランゲージなどを使います。最初に発達したのは匂いによるコミュニケーション。嫌いな猫同士が会わなくて済みますし、匂いをつけておくと長持ちしますから。その次に発達したのが鳴き声など音によるコミュニケーション、そして毛を逆立てたりするボディランゲージと続きます。ちなみに、猫同士の会話というと「にゃあ」「にゃあ」と言い合う風景を想像しがちですが、あの鳴き声は成猫同士ではほとんど出しません。猫同士で出すのは母子関係だけですね。逆に飼い主など人間には「にゃあ」と鳴く。人間と猫の関係は母子関係に近いといえるでしょう。

―約1歳のオス猫2匹目が毎日取っ組み合いしてます。大事には至らないのですが、これは仲がいいのか悪いのかどちらでしょう?
おそらく仲がいいのでしょう。ケンカというよりは遊んでいるだけで、噛んだり取っ組み合ったりしていても、大事に至らないのであれば心配することはありません。猫のほんとうのケンカはどちらかがケガするくらいまではやりますし、家猫同士で本当に険悪だったら、別々の部屋にいて会わないようにすると思います。取っ組み合いに入る前の猫にも注目してください。背中の毛を逆立てて、耳も倒れ、ケンカの時の特有の声を出しているのが本気のケンカ。ごろんと腹を見せて転がったりしているようなら、それは遊んでいる証拠です。

3.猫のからだのなぞ

―猫は暑さに強そうですが、どうやって体温調節しているんでしょうか。
品種にもよりますが基本的には猫は暑さには強くありません。足の裏にしか汗腺がないので、体温調整が難しいのです。逆に寒さには比較的強いんですよ。「猫はこたつで丸くなる」と歌にありますが、実はそんなことはない。雪国の猫は雪の中でも平気で遊びに行きますよ。とはいえ汗腺がまるでない犬よりは足の裏から汗をかく分、まし。猫は全身を舐めてその気化熱で身体を冷やしたりもしています。犬は口を開けてはあはあと熱を出す“パンティング”を行いますが、猫もあまりにひどい暑さだとパンティングをします。それから、暑いときに涼しい場所を、寒いときに暖かい場所を探すのが上手。猫のいるところへ行くと心地いいというのは確かですね(笑)

―うちの子はものすごいカギしっぽです。カギしっぽってどうやってあんな風になるのですか?
複数の遺伝子の支配下でしっぽの形状が決まるとされています。ただし日本の猫のしっぽの歴史は世界的にみてもかなり特殊。江戸時代、猫は年をとると尾が二股に分かれ、妖力を得て人肉を食う「猫又」になるという猫又伝説が流行し、二股のしっぽにならないように尾を切るという習慣がありました。しっぽの長い猫が嫌われていたために、カギしっぽやボブテイルと呼ばれる短いしっぽの猫の割合が今もとても高い。カギしっぽは昔の蔵の錠前のイメージから、商売繁盛のお守りとされています。ボブテイルは本当に珍しいので、欧米の方などは見ると喜びますね。昔の浮世絵なんかに描かれている猫はみんな短いしっぽなんですが、この頃は欧米の種が入ってきて、野良猫でも長いしっぽの猫が多くなりましたね。

―ねこ掴みをするとおとなしくなるのはなぜですか?
首の後ろをつかむやり方ですね、“ねこ掴み”って言われているとは知りませんでした(笑)。不動反射と言って、小さい頃に母猫にくわえられて移動していた頃の名残です。まさにクロネコヤマトのロゴマークになっている光景ですね。ただあれは、体重が軽い子猫だからできること。成猫になって体重も重くなってからやると本当に痛いのでやめてください。

―なんで、猫の柄ってあんなに多彩なんですか? 一体何種類くらいあるんでしょうか。
白、黒、赤(茶)、これが混ざった斑、さらにトラ柄、キジ柄などの色柄が遺伝によってあらゆる出方をしますので、色柄の種類は無限です。ただ興味深い話があって、猫のクローンは元の猫と同じ色柄にはならないことが確認されているんです。つまり遺伝子だけではなくて母親の胎内の環境が色柄にも影響している。分かっていない部分は大きいんですよ。

―うちの猫(生後三ヶ月、白黒猫)はめったに鳴き声をあげないのですが、あまり鳴かない猫もいるのでしょうか? それとも大人になったら鳴くようになりますか?
品種によっては鳴かない猫もいます。あまり心配する必要はありませんよ。

―小さなお人形をくわえながら、後ろ足でふみふみします。ふんばってるような感じもしますが、何をしているのでしょうか? 痔にならないか心配です。
もし去勢をしていなくてこの行動をしているのなら発情して交尾しようとしているのかも……。痔にはならないでしょうが、ストレスになっていそうでかわいそうですね。お尻をくっつけて歩くのはうりざねギョウ虫という虫がいて痒いからこすっている可能性があります。この場合は病院に行ってみてください。

―猫も夢を見ますか? 寝ていた猫が急に起きてひと声鳴き、私を見るとまた寝る、ってことがあるんです。
夢は見ます。睡眠時の脳波が人間と同じで浅い眠りのときと深い眠りのときがあったり、眼球運動もあったりすることが研究で確認されているんです。ただしどんな夢を見ているのか、また夢と認識しているかは分かりません。ひょっとして猫にとっては全部が現実かもしれない(笑)。犬も同じで、たまに寝ながら声を出したり、走るように手足を動かしたりしていますよ。

〜続きは後編(近日公開予定)で。