「犬のための建築」デザイナー・原研哉さんインタビュー

Dec 20, 2013 / Topics

Tags: interview

photo:Hiroshi Yoda、Nacása & Partners Inc.

デザイナー・原研哉さんがディレクションするプロジェクト「犬のための建築」。犬の尺度で建築を捉えなおすことで、新たな建築の可能性を模索する本プロジェクトは、世界をリードする建築家・デザイナー13組が参加。彼らがデザインした「犬のための建築」作品は、サイト上でフリーダウンロードできる設計図と共に公開されています。なぜ犬なのか、そして「猫のための建築」はありえるのか。猫と暮らしたこともあるという原さんに本プロジェクトについて伺いました。


ー「犬のための建築展」はどのように思いつき、構想していたのですか?

「建築の新たな捉え方に興味がありARCHITECTURE FOR (    ).の括弧内に入るテーマを様々に考えていました。(swimming)も(sleeping)も面白そうでしたが、dogsはとても具体的で、地球に住む全ての人が知っている普遍的なテーマだと考え、このアイデアを温めてきました。発想したのは15年ほど前です」


〈ARCHITECTURE FOR LONG-BODIED-SHORT-LEGGED DOG by ATELIER BOW-WOW for DACHSHUND SMOOTH〉

ー原さんは今、犬と暮らしているのですか?

「今は旅や移動の多い生活なので飼っていません。小学1年生から高校の3年まで『チビ』という名のスピッツを飼っていました。性格のおっとりした賢い犬で、散歩はいつも僕がしていました」


〈BEAGLE HOUSE INTERACTIVE DOG HOUSE by MVRDV for BEAGLE〉

ー猫と暮らしたことはありますか?

「僕が実家の岡山を離れた後、父も亡くなってやや寂しくなった実家で、母と妹が猫を飼いはじめました。小さな三毛猫でしたがすぐに二匹の子を産んで、一匹は雄、一匹は雌でした。雄は一二年で、巣立っていきましたが、母と娘は仲睦まじく、その後二十数年間、仲よく実家で飼われていました。母は賢く、娘は甘えん坊で人なつこく。娘は二十二年生きた後、母より一年早く皆に抱かれて息を引き取りました。賢い母は、その一年後に、死期を悟ったのでしょう、どこかにいなくなりました」


〈ARCHITECTURE FOR THE BICHON FRISE by KAZUYO SEJIMA for BICHON FRISE〉

ー本プロジェクトに参加している建築家で、一番犬好きだと思う人は?

「伊東豊雄さんではないでしょうか。発想が極端で、ご自身の犬・ももちゃんに集中されていたように思います。また、ももちゃんは撮影モデルも勤めてくれて、ご家族との微笑ましい関係も目にしました」


〈MOBILE HOME FOR SHIBA by TOYO ITO for SHIBA〉

ー小説家やミュージシャンには猫好きが多いのですが、建築家は圧倒的に犬好きが多いですよね。なぜだと思いますか?

「分かりません。猫は、自身では飼われていると思っていないのではないでしょうか。そういう自由さが、明日をも知れない漂泊の日々を生きていくミュージシャンと相性がいいのかもしれません。一方では、垂直壁もものともせず上がり下りする猫の運動性は、建築家の感覚的な常識を逸脱しすぎた存在なのかも知れません。いずれも憶測に過ぎませんが」


〈WANMOCK by TORAFU ARCHITECTS for JACK RUSSELL TERRIER〉

ーこの企画をスタートしたことで、犬や建築に対する見方は変化しましたか?

「猫はおおむね同じような大きさですが、犬は実に多様です。セントバーナードやゴールデンレトリバーとトイプードルはまるで違う生き物で、飼い主同士の話も興味も合わない。したがって、犬の建築に普遍解はなく、犬への選択と集中が必要だと思いました」


〈NO DOG, NO LIFE! by SOU FUJIMOTO for BOSTON TERRIER〉

ー犬と人間は主従関係といわれますが、なぜ人は犬を必要とするのだと思いますか?

「犬の交配はほぼ完全に人間が支配し、その種のバリエーションも、人間が作ってきたものです。ですから人間と犬の関係は特別で、主従関係に近いものがあるかもしれません。しかし犬自身は、家族の中で自分のポジションを下から二番目と考えていると言われています。猫は勝手に生きていて、人間との関係も五分五分に見えます」


〈POINTED T by HARA DESIGN INSTITUTE for JAPANESE TERRIER〉

ー犬は人間の言葉を理解していると思いますか?

「完璧には理解していはないでしょう。きわめて限定された言葉の意味は理解していると思います」

ー犬と猫の一番の違いはどこでしょうか。

「猫はおおむね猫であるが、犬はそれぞれに犬である」


〈PARAMOUNT by KONSTANTIN GRCIC for TOY POODLE〉

ー犬になりたいですか?

「いいえ」

ー今後「猫のための建築」をやる予定は?

「今は考えていません。あまりに自由な『猫のための建築』は可能性があるでしょう。お考えがあれば教えてください」

■ARCHITECTURE FOR DOGS 犬のための建築
http://architecturefordogs.com/ja/architectures/

■ARCHITECTURE FOR DOGS 犬のための建築展
開示:2013年10月25日(金)~12月21日(土)
会場:TOTOギャラリー・間
http://www.toto.co.jp/gallerma/ex131025/