福島・三春シェルターからやってきた「小春ちゃん」ー被災動物の里親になるということ

Jun 25, 2013 / Topics

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Photo:Naoko Nakui Edit&Text:Madoka Hattori

今年2月、福島・三春シェルターで取材した里親募集の記事の中でもひときわ目をひいた小春ちゃん(https://ilove.cat/ja/6944)。ブルーの目をした小春ちゃんは、シェルターでもおとなしくて人気の猫。記事をアップして間もなく、小春ちゃんの里親になりたいと連絡をくれたのが、ブックデザイナーの名久井直子さんでした。被災動物の里親になるということは、どういうことなのか。名久井さんと小春ちゃんの今を取材しました。


—ilove.catが初めて福島・三春シェルターへ取材したのが2月のこと。シェルターから東京へやってきて約3ヶ月経ちましたが、小春ちゃんの様子はいかがですか?

「始終ベッタリですね。自宅ではポンポンという名のポメラニアンMixを飼っていて、仕事場で過ごす時間のほうが圧倒的に多いので小春ちゃんはいつも仕事場にいるのですが、ポンポンはすごく大人で、小春ちゃんのほうが甘えん坊。犬の方が甘えていて猫は自由で我関せずと言われますが、猫ってこんなに甘えるのかとびっくりしています」

—シェルターとは全く環境が変わりましたが、すぐに家に馴染みましたか?

「最初は、物陰に隠れて全く出て来ませんでした。目を離している隙にトイレとご飯をこっそり済ませていたみたいで。1週間くらいたって、ある日ひょいっと膝に乗ってきたんです。ここが安全だとわかったのか、それからはもうベッタリ。でも見知らぬ人が来ると逃げてしまいますね。打ち合せをしていると、遠くから様子を伺っている感じ。また食への執着が強く、いろいろなモノをだめにされました。実は最初は猫の行動範囲を甘くみていて、高い所には登れないと思っていたのですが、不在の時に棚のお菓子などバリバリとやられていましたね。人間の食べ物で猫は食べないようモノにも手を 出します。カリカリのご飯も一気に平らげるくらい、食い意地がはっています」

—きっと震災後、シェルターに保護されるまで、ご飯を満足に食べられない時期があったからですよね。

「そうかもしれません。タイマー付のフードボウルを使っているのですが、ある時、ご飯の出口に手をつっこんで、ポロポロッて出てくるカリカリを勝手に食べているのを見かけました。私がやっても出ないのですが、コツがあるみたい。ずる賢いですね。あと猫じゃらしも最初は遊ぶのですが、私が動かしていることに気がつくと“つまんな〜い”みたいな顔をして一気に冷めます。仕事をしていると、キーボードの上に乗ってきて顔を近づけるし、洗面所やどこに行くにもついてくる。意外に図々しい性格です。シェルターでは小春ちゃんは大人しいと言われてい ましたが、絶対猫をかぶっていたと思います(笑)」

—そもそも名久井さんは、以前から猫を飼いたいと思っていたのですか?

「実家では、ずっと犬と暮らしてきたんです。でも小春ちゃんと暮らしはじめて、犬を飼うずっと前に捨て猫を公園で育てていたことを思い出したんです。3〜4日で逃げてしまったのですが、黒猫と白猫の2匹いました。その白猫が小春ちゃんにちょっと似ていたなと。友人である大島依提亜さんの ひゃっこちゃん(https://ilove.cat/ja/4411)や井上佐由紀さんのどんこさん(https://ilove.cat/ja/6209)、酒井駒子さんのお宅にいるロシアンブルーのミツとコトとか、素敵な猫を飼っている人が周りに多くて、でも飼いたいと思うほどではなかった。小春ちゃんは完全に一目惚れです」

—決断が早かったですよね。小春ちゃんの里親になると決めてから、すぐに申請のFAXを送ってくださり、2週後には福島へ行きました。譲渡の時は何匹か候補の猫をみて、気に入ったらその場で連れて帰ることになります。シェルターではお試し期間がないのですが、不安はありませんでしたか?

「里親になることの迷いはなかったです。実家が岩手なので、福島についても特に遠いイメージもありませんでした。犬もお試しをせずに飼い始めて大丈夫だったし、いい子でもわがままな子でも許容範囲かなと。被災動物かどうかということも、特に気にはならなかったです。でももし、元の飼い主さんが小春ちゃんをみつけて返して欲しいとなったら……すごく悩むと思います」

—通常、里親になる場合は必須ではないのですが、名久井さんは譲渡前にボランティアにも参加しましたよね。

「ボランティアをしたという気持ちの面ではなく、単純に何十匹というたくさんの猫たちに触れられたことはすごくよかったですね。トイレの掃除やご飯のあげ方など、飼う前にみることができて、勉強になりました。ゲージから全く出て来ないビビりの子がいたり、元気な子やスリスリ甘える子がいたり。またウンチひとつとっても、猫によってカタチや匂いが千差万別。楽しいウンチ拾いでした(笑)」

—初めてボランティアに参加する方は、何十匹という猫に囲まれるという状況にびっくりすることもあると思うのですが、名久井さんは平然と作業をしていましたよね。

「多分、私は人よりも自意識が薄いんです。だから、緊張することもあまりなくって。迷いもあまりない。ぼーっとしてるだけなのかもしれないですけど、自分がいいと思ったことをただやるだけですね。経験して思ったのですが、里親になる前のボランティアはぜひおすすめしたいです。それは善行だからということではなく、単純に楽しいし、自分の役に立つから。猫それぞれのやり方を体験できるめったにない機会です。職員さんにとっても、やり方をわかっていない人に教えるのは正直手間で面倒だと思うんです。でも、頭で考えるよりも猫について一気に理解出来ます」

—小春ちゃんと暮らし始めて、新たな発見はありましたか?

「うがった見方かもしれませんが、犬を飼っている人はTwitterのアイコンにしていない人が多いのに、猫を飼っている人は猫のアイコンにして いることが多いですよね。instagramもそうですが、なぜか猫の写真をアップする人が多いと思っていたんです。それが、小春ちゃんがきて から自分も同じように写真をアップするようになっていて……まんまと猫られた!と(笑)。ちょっと前の自分からみるとイヤなんだけど、猫られてみると楽しいなって。グッズも、犬のモノは特に魅かれなかったのに、白猫のモノをみるとついつい手が出てしまいます」

—今後、装丁のお仕事にも小春ちゃんの影響がでてくるのでしょうか。

「手がけた猫の本といえば『ミツ バルテュスによる四十枚の絵』(河出書房新社)があるのですが、今後どうなるかはわからないですね。今はひたすら携帯電話などで写真を撮っていて、小春フォルダができています。ポンポンの写真はあまり撮らないのに、不思議です。犬はテレビを見ているから邪魔しないようにしようとか、犬の方が空気を 読みますよね。小春ちゃんは暑いとかお腹がすいたとか、そういう欲望で動く。だから出張にいっても、大人のポンポンよりも小春ちゃんのほうが心配になったり。あとは、猫を飼い出したことで、猫を飼っている人たちとの距離が一気に近くなった気がします。たのしいです」

—小春ちゃんは被災して保護されてから素敵な飼い主さんに巡りあえたわけですが、まだまだ三春シェルターには、里親募集中の猫がたくさんいます。

「毎日シェルター通信(http://www.fuku-kyugo-honbu.org)を見ています。里親さんがみつかった猫たちをみると、よかったな〜って。実はいま、里親募集しているユメくんが気になっていて。小春ちゃんにすごい似ているんですよね。もしかして兄弟なのかな と。シェルターの猫たちは、親戚というか繋がっている気がします」

名久井直子(なくい・なおこ)
武蔵野美術大学造形学部視覚伝達デザイン学科卒業。ブックデザイナー。広告代理店勤務を経て、2005年よりフリーランスとして独立。
https://twitter.com/shiromame

福島県動物救護本部「三春シェルター」の記事はこちら
https://ilove.cat/ja/6944
(追記:2015年12月25日、すべての犬猫の飼い主や里親がみつかり、三春シェルターは閉鎖されました)